JONPFレターNo.05|一般社団法人 日本NP教育大学院協議会

JONPFレターNo.05

JONPFレター No.5 医療MaaSでの無医地区巡回診療の実際

山口市徳地診療所
診療看護師(NP)中山法子

私はフリーランスの診療看護師(NP)として医療機関以外でも基礎自治体の予防保健事業や個人事業者として地域でのフットケア活動を行っています。このニュースレターではその中の業務の一つである、山口市徳地診療所(以下、診療所)での無医地区巡回診療の活動についてご紹介いたします。

山口市徳地(旧德地町)は、山口県の中山間部にあり、およそ5000人の人口で高齢化率は55%を越え、常勤医のいる医療機関は診療所だけです。私は非常勤診療看護師(NP)として現在毎週火曜日に外来を担当し、月2回の無医地区の巡回診療のうち1回のオンライン診療で現地の診療を担当します。なお巡回診療のもう1回は医師が現地で診療を行っています。

●巡回診療の概要
巡回診療を三谷地区は、巡回診療開始までは無医地区でした。地域にある三谷交流センター(旧三谷小学校)で巡回診療は実施しています。地域の方には交流センターまでは来ていただき、集うことで待合室でのコミュニティも大切にしていきたいというコンセプトを持っています。なお、交流センターまで自力で来られない方については、個別に医師が訪問診療をしています。 巡回診療車のシステムの概要は、メディカルムーバー(トヨタ車体)に遠隔診療デバイスとしてTeladoc HEALTH(ウィーメックス社)が搭載されています。ポケットエコー(Lumify)を装備し、リアルタイムで遠隔にいる医師が画像を確認することができます。

<待合室の様子>
<車内の診察室>

現地には診療看護師(NP)1名と、Ns2名、事務員1名(医師は診療所で待機)が配置されています。

診療の流れは、以下の通りです。 受付、②看護師による事前問診とバイタルサインチェック・トリアージ、③順番に車内診察室に移動(看護師による誘導)、④診療看護師(NP)による診察、⑤医師によるオンライン診療(with NP)、⑥調剤薬局によるオンライン服薬指導(with NP)、⑦待合室に移動(看護師による誘導)、⑧会計

オンライン診療のながれ

●患者さんの声

①2023年10月以降5回実施(1回は大雪のため中止)、平均4名/回。

②同地区全世帯へのアンケート調査の中で、オンライン診療への不安について質問したところ、オンライン診療を利用した世帯からは「不安は全くない」「どちらでもない」という結果でした。

③現地での感想では、「近くで診察してもらえて、薬も自宅に届けてもらえて便利」や「わざわざ診療所にいって医師の診察を受けるほどの状態なのかなど、診療看護師(NP)にちょっとした相談ができて安心できた」などの声がきかれました。また、不安な表情で来所された80歳代女性は、総合病院を定期受診しているがよくならないと相談にこられました。診察の結果、喘息もしくは心不全が疑われたため、翌日に診療所を受診するように促しました。診察終了後に「本当に安心した。今日はここに来てよかった」と笑顔で帰宅されました。ほかにも診療件数にはカウントされませんが、後片付け中に体調の相談にこられたり、近所の独居高齢者のためにどんなことに注意したらいいかなどの質問にも対応しています。

●今後の展望

利用者数はまだ少ないのですが、診療看護師(NP)の診察とオンライン診療に不安を感じる患者はおらず、オンライン診療の役割は果たせていると考えます。メリットとしては医療アクセスが脆弱な地域に定期的に巡回診療することで、交通弱者も適切な間隔で医療が受けられ、重症化予防や異常の早期発見に貢献できています。また、看護職が主体となって地域住民に対応することで、医師には相談しづらい健康相談の機会が持てることで安心感につながっていると考えます。高齢者には難しくなってくる足の爪切りなどの身体的ケアも提供でき、健康増進にもつながる可能性を感じます。そして、無医地区の住民が助け合いながら暮らす力を健康面から支援できることにもつながる可能性があることにも気づきました。そこに看護の専門性が届くことで、気軽に相談でき、的確に医療に繋がり、適切な看護が展開できる場が創造できていると感じます。

2024年1月厚生労働省通知でオンライン診療の場所も拡大され、この6月からの診療報酬の改定では、へき地におけるD to P with Nに加算がつくことになりました。協働する医師からは、オンライン診療では患者の状況把握能や聞き取れる情報が限られていることから、現地にいる診療看護師(NP)の問診から患者の状況や背景を把握する能力やフィジカルアセスメント技術の重要性を聞きます。また、診療看護師(NP)からはオンライン診療では医師の診療、治療意図がしっかりと患者に伝わってないことがあることも現地では伺え、それを現地で補足していることも医師にフィードバックし、診療チームでも共有します。日頃からの医師、診療看護師(NP)の診療に関するコミュニケーションに努めています。現地で患者に対応する看護師の診療スキルやアセスメント能力が診療の精度を左右すると考えます。看護実践力に、診療の能力をトレーニングされている診療看護師(NP)の活躍の場は、へき地に限らず、どんどん広がることが期待されます。